ATypI Hong Kong 2012 世界的なタイポグラフィイベントレポート 後編

info過去に運営していたフォントブログの記事を再編集して公開をしています。

香港で開催された世界的なタイポグラフィカンファレンスATypIのイベントレポート後半、3・4日目のレポートです。全てのセッションに参加したわけではないので部分的なレポートとなっています。

arrow_backATypI Hong Kong 2012 イベントレポート前編はこちら

3日目からはザ・コンランショップのテレンス・コンランがインレリアデザインを担当したHotel ICONへと会場を移し、より広く、高級感溢れる会場になりました。

まずモリサワの八神さんが、日本の漫画文化、自分を示す「私」言い方や、例えば「青色」の色名にも様々な呼び名があることなど、日本語全般の紹介をしつつ、モリサワの新ゴが日本語、中国語、韓国語であれば、例えばサイン看板などで統一感が生まれるというお話をされました。また文字数にして34ウェイトで合計783,972文字!という驚愕の多さに会場がどよめく場面もありました。

Helveticaのタイ語バージョンであるHelvetica ThaiのタイプデザイナーAnuthin Wongsunkakonさんの話もありました。

Helvetica Thai

またMartha Carothersさんによるアルファベットの大文字と小文字を壁を取っ払った26文字“Alphabet 26 (Monalphabet)”を考案したUSのグラフィックデザイナーBradbury Thompsonも興味深かったです。

3日目は全体的に中国語、日本語、韓国語などの非ラテン文字の話題が多く、香港理工大學の図書館ではイギリスのレディング大学が所蔵する非ラテン文字の膨大な資料が展示され、夕方から夜にかけてレビューが行われました。

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4日目の最初のセッションは、Monotype小林 章さんによる、日本の丸ゴシック体のお話。

日本では道路標識に使われているナールを始め、手書きの看板においても幅広く使われている丸ゴシック体ですが、欧文書体では最近になってDIN Next Rounded、Gotham Rounded、Museo Sans Roundedなど、丸ゴシック体が多数リリースされ、1つのトレンドになっています。

海外では「丸ゴシック=やわらかい、かわいい」というイメージが強いらしく、日本では「止まれ」「高圧注意」「危険」のような注意を促す看板にも使われていることに、会場の海外の方が笑っていました。言われてみれば確かにユニークかも。これこそが意外と気づかない文化の違いだと感じました。

このプレゼンの内容が後に1冊の本「まちモジ」になった

また小林さんが大阪の手書き看板屋さんへ取材に行った際のエピソードも紹介されました。七輪で焼いた肉をカッターナイフで切ってご馳走してくれたり、ビールを飲みながら看板を作っていたりと、大阪らしい情に溢れる素敵な看板屋さんだったそうです。その後小林さんとランチをご一緒しました。

次に登壇されたのは大日本タイポ組合の秀親さんと塚田さんと、ヨコカクのタイプデザイナー岡澤さん。新世界タイポ研究会による「もしひらがなが最初から横書きだったらどんなデザインになっていたか」という研究報告です。

参加したセッションの中では、おそらく1番会場が盛り上がったのではないかと思います。特に質疑応答において、何とも答えづらい質問を英語で次々と投げかけられていましたが、しっかりと答えていて素晴らしかったです。

そんな異様な会場の盛り上がりを受けて、次の登壇者が最初に「私のトークにジョークはないからね!」と謎の予告をする場面も。本当にジョークはなかったのですが、書体の視認性の話題で、スクウェア系グロテスク体Eurostileと、ヒューマニスト系サンセリフ体Frutigerの2つを比較し、教習所にあるような自動車のドライブシミュレーターでどれだけ認知エラーが減ったかどうかという調査結果という興味深いお話でした。結果として男性では10%ほどエラーが減ったそうです。

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Hotel ICONの近くにある香港理工大學では、世界的な書体デザインコンペティションLetter.2やGranshanなどの受賞書体のタイポグラフィポスターが一堂に集められ、Adobeのかづらきや、視覚デザイン研究所のロゴJr.、立野竜一さんのPirouetteのほか、既に世に出た人気の欧文書体のポスターがたくさん展示されていました。

ATypI Hong Kongのイベントは5日目が最終日ですが、本業の仕事があるため参加せず帰国しました。ATypIが香港で開催されたことをきっかけに、タイプルノアール 香港 (Type Renoir in Hong Kong) のイベントも行われ、世界各国の文字関係者(特にアジア圏)が繋がる大きなきっかけとなりました。

初稿:2012.10.16