Twenty-Six Characters: An Alphabetical Book About Nokia Pure — アルファベット26文字から考察するNokiaのコーポレートフォント

2024.1.29

携帯電話としてスマートフォンが一般的になる前、いわゆるガラケー時代に、携帯電話端末の世界シェアNo.1メーカーだったのがフィンランドのNokia(ノキア)です。のちに端末事業はMicrosoftへ買収するなど波乱万丈な時代を経て、現在は通信インフラを担う事業が主となっているようです。

スマートフォン時代になって、外観デザインはどこのブランドもほぼ同じとなってしまいましたが、ガラケー時代には国内・国外メーカー問わずプロダクトデザインとして様々な楽しみがあった時代でした。当時日本人が使う携帯電話端末は国内の端末メーカーが圧倒的シェアを持っていましたが、ドコモやSoftBankでは一部のNokia端末を使うことができました。しかしながら国内でのNokiaの端末の利用には制約が多く、使いづらい点がたくさんあったものの、海外の洗練されたデザインだったので使っている人も多かったはず。当時私はSoftBank (Vodafone)ユーザーだったのでVodafone 702NK (Nokia 6630)を買おうか悩んでいました。

…というか久々にNokiaのことを調べたら、知らない間に事業どころかロゴまで変わっていて驚きました。ずいぶん前衛的なロゴになってしまいましたね。

・・・・・

前置きが長くなりましたが、本書はNokiaのコーポレートフォントであるNokia Pureを、アルファベットのAからZの順番に26の観点から書体の考察を行っています。アートやデザインの分野に強いドイツのデザイン書をGestaltenから発売されました。

もともとNokiaのコーポレートフォントと言えば、タイポグラフィ界の巨匠であり、書体デザイナーでもあるErik Spiekermann(エリック・シュピーカーマン)氏が開発したNokia Sansがありました。全盛期のNokiaを知っている人であれば、Nokia Sansのほうが馴染み深いのではないでしょうか。

Nokiaブランドを世界で確立させ、長く愛されてきたNokia Sansですが、携帯電話の高性能化や時代の様々な変化に伴い、ロンドンのフォントファウンダリDalton Maagが新しいコーポレートフォントNokia Pureを開発しました。Dalton MaagはNetflixや楽天のコーポレートフォントなども手掛けるなど、実績と信頼がある会社です。

Nokia SansとNokia Pureの書体デザインは見た目の印象としては大きく異なります。直線的で尖った印象があるNokia Sansに対して、Nokia Pureはふところが深くゆったりとしたデザインとなっていますね。そんなNokia Pureがどのような経緯で開発されたのか、完成するまでどのような試行錯誤があったのかを知ることができる貴重な1冊となっています。

Nokia Pureに関する話題がほとんどですが、関連してemダーシとenダーシの違いなど、フォントの知識やタイポグラフィ、欧文組版などの項目もあり勉強になるほか、フィンランドの首都ヘルシンキの街文字やヴィンテージ看板の写真も掲載されていて、1冊で2度、3度以上美味しい内容となっています。

全体的に書かれている内容は堅めではありますが、資料や書体デザインが誌面いっぱいに大きくレイアウトされているので、ビジュアルブックとしてもおすすめです。

2011年に発売された当時はフォントブログのほうでも紹介をしており、出版社の方から連絡をいただいたこともありました。現在は入手困難でプレミアム価格となってしまっているようです。もし古本屋で見つけたら、ぜひ手に入れてみてください。