続・和文フリーフォント集 — 限定フォント多数収録!今までに誰も見たことがないフォント本(著者インタビューあり)

info過去に運営していたフォントブログの記事を再編集して公開をしています。

続・和文フリーフォント集は、著者の大谷秀映さんが2010年に世に出した「和文フリーフォント集」の続編です。
前回の和文フリーフォント集は、人気のフリー和文フォントが1冊に集約されていることや、斬新すぎる表紙デザインで注目を集めましたが、5年の年月を経て待望の続編が発売となりました。

本書限定のオリジナルフォントを多数収録

“フリーフォント集”なる本は、国内外のフォント配布サイトからダウンロードできるフリーフォントを集めた素材本が定期的に出版されています。手にとって眺められる点や、ライセンスが明瞭である点などから便利ではあるのですが、肝心な収録フォントはというと、どの本も一辺倒な印象。

本書「続・和文フリーフォント集」はダウンロードできるフォントだけを集めた本ではないことが大きな特長です。しかも前回の和文フリーフォント集とは収録フォントが重複してないので、完全な別物として楽しめます。

収録されている全80種のフォントの中で、“FG”が頭に付いているフォントは全て著者の大谷さん自身が制作したり、改変を施した本書限定のオリジナルフォントです。多くのフォントはアドビ社のオープンソースフォント源ノ角ゴシック(Source Han Sans)を利用しているので、ひらがなやカタカナ、漢字が使える日本語フォントとなっています。

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斬新なアイデアの収録フォントを紹介

収録されているフォントの中から、いくつかおすすめフォントを紹介します。

FG ミディアムオールド半角

収録フォントの中でも一番注目なのが、約300字の漢字を旧漢字に、旧漢字は新漢字に変換される「FG ミディアムオールド半角」です。以前にネットで話題になった阪急梅田駅の“田”の字も、特別バージョンで収録となっています。

FG ミライ

ひらがなもカタカナも欧文も全ての骨格は厳格なる宇宙法則に従ったというSF風なコンセプトを持つ「FG ミライ」。派生フォントとしてレイヤーで楽しめる「FG ミライ線」や、丸みを帯びた「FG ミライ丸」、連結して見える「FG ミライ連」も収録されています。

FG ミライルビ

同じFG ミライの派生フォントである「FG ミライルビ」は、ローマ字のルビが添えられた機能的なフォント。東京オリンピックを控え、来日した外国人に少しでも日本語の読み方を学んでほしいという願いも込められているそうです。

様々なフォント作家とのコラボフォントも

オリジナルフォント以外にも、他のフォント作家のフォントも収録されています。中でも1990年代〜2000年代を代表するグレイグラフィックス(現在はサイト閉鎖中)や、ガウプラ(高橋としゆきさん)とのコラボレーションフォントが実現し、かなフォントが日本語フォントとなって生まれ変わっています。

ビジュアルもすごい!今までに誰も見たことがない文字の本

本書のまえがきには「今までに誰も見たことがない文字の本を作ること」を制作目標として掲げる大谷さんの強い意気込みが書かれています。そのあらわれは、本書限定のオリジナルフォント収録ということだけではありません。

なんと収録されている全てのフォントのイメージ画像やイラストは全て大谷さん自身で制作。加工をしたり、撮影をしたりと手間がかかったオリジナルのグラフィックです。特に秋葉原の繁雑な街並みの合成加工にはビックリ!

まえがきの最後に書かれている、“編著者兼デザイナー兼フォント作者兼イラストレーター兼カメラマン:大谷秀映”。一人で全てをやってしまう大谷さんに頭が下がります。

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著者の大谷さんに簡単なインタビューをさせていただきました。また本レビュー記事の誌面サンプルも提供いただきました。ありがとうございます。

—前作の「和文フリーフォント集」は、かなりの注目を集めましたが、評判はいかがでしたか?

2010年に作った「和文フリーフォント集」は、当時フォント本というとアルファベットフォントしかなく、「ABCDE〜」だけ並べたモノクロ本しかなかった中、カラーサンプルで見開き展開で、和文フォントの作例をメインにデザインしたので好評でした。それまで、ネットでは和文フリーフォントのダウンロードサイトはありましたが、本にしてまとめたものは存在しませんでした。
これは絶対画期的な本になると確信していましたので、表紙のキャッチコピーは、「愛読者から絶賛の嵐」とか「素敵・素敵すぎる。。」とかちょっと気恥ずかしくなるような文字列をメインにベタベタに並べるというありえないデザインにしました。

…という考えとは裏腹にアマゾンの書評では、表紙がダさいと評判になりました。しかし、表紙はダさいけど内容はしっかりしているといった好評価でしたので、真逆で表紙はかっこいいけど内容は?な文字本もある中、多くの方に受け入れられたのではと思っています。この5年間で同名のタイトルの類似本が他社から2冊、同コンセプトの本がいくつか出ていますので、影響は与えているのではと思います。

すぐに続編の話は出ていたのですが、フォント本は収録するフォントデータにかかっています。
特に和文フォントは、アルファベットのように256文字だけ作れば済む文字データ量ではなく、何千文字にものぼるため、わざわざ和文フォントを作ろうというクリエーターさんはそれほど多くはありません。

誰がフォント本を作ろうとも、収録するフォントはおのずと決まってきます。そのため可能な限り自分で作ってしまおうと考えました。収録したいフォント作者に収録の打診をしたとしても、経験上返事が返ってくるのは半分位しかいないというのも理由の1つです。自前で用意すれば他書とは一線を画すオリジナリティのある本になります。

そして前回の表紙がダさいとされた反省をふまえ、今回は1万倍位ブラッシュアップしまして、「続・和文フリーフォント集」に至ります。前回もそうでしたが全ページ、全データを単独で作る手法は変わっていません。
特に表紙にはチカラを入れまして、撮影した建物にすべて本のキャッチコピーを入れるというコンセプトのもとデザインしています。このアイデアは前作2010年の和文フリーフォント集、街の店看板コラージュを発展させたものです。

—大谷さんにとって、アドビのオープンソース日本語フォント「源ノ角ゴシック」の登場とは?

日本語は第二水準まで入れると数千文字にのぼります。日に10文字作り続けたとしても1年で3,650文字しか作れず、最低でも2年はかかる計算になります。漢字部分を既存のオープンソースフォントを元に、仮名やアルファベットを自前で組み合わせた方式でフォントを作る手法がありますが、ほとんどの和文フォントはそうした改変を許可していません。それまで、オープンソースのIPAフォントなどがベースフォントとしては一般的でしたが、ウエイトが細めの一種類しかありませんでした。
「源ノ角ゴシック」の場合は、ゴシックだけですが、細め〜極太まで7種類ものウエイトがあり、バリエーション展開がしやすいです。

現在、私が作っているベース和文フォントは、「IPA」ベースのゴシック&明朝や、「源ノ角ゴシック」ベースのゴシック系などがあります。元の漢字にはエフェクトをかけているため、原型をとどめていないものもありますが、ベースとして使いやすい高品質な「源ノ角ゴシック」のようなオープンソースが登場したことは非常にありがたいです。

ただ、ライセンスに沿っての利用ですので、自由に展開するには、すべて自前で漢字まで作る必要があります。未発売ですが、3年ほどかけて完成しつつある和文フォントがあり、これから仮名部分の展開を考え新作有料フォントを準備中です。

—90年代と現在とではクリエータが作るフォント(俗にいうデザイナーズフォント)にはどのような違いがあると思いますか?

実は90年代からフォントをわざわざ作ろうとする人はあまりおらず、フォントを使う人がほとんどです。
昔はFontographerでアルファベットフォントを作るのが一般的でしたが、武蔵システムのTTEitやOTEditなどができたおかげで日本語フォント作成が身近になりつつあります。
そのせいか、90年代はデザイナーがフォントを作っていましたが、最近では和文フォント、特に手書きフォントはデザイナーではなく、学生さんや主婦の方など女性が増えたような気がします。しかしフォント作成は本当に地味な作業です。派手なイラストやアニメのような色ものを作る人口が圧倒的に多いのもわかりますが、漢字や仮名も基本的には象形文字ベースで、何かを表しているという点ではイラストと変わりないと思います。

昔から次のバランスは変わってはいないと思います。
・アニメやイラストを描く人=多い
・アニメやイラストを使う人=少ない

・フォントを作る人=少ない
・フォントを使う人=多い

アニメとフォントでは需給が真逆であることがわかります。
アニメやイラストの場合は、作成ソフトや環境の充実、学校が広く普及しており、学習人口もクリエーターも多く、フォントの場合は環境も学校も一般的ではありません。
フォント作成の方法自体あまり一般化していませんので、書籍なり学校なりあれば充実してくるかとは思っています。

漠然ではありますが、そうしたフォント作成の書籍や学校のような場所を作れたらいいかなと思っています。
人数がある程度集まれば、場所の確保、カリキュラムの計画、授業料も含めて計画したいと考えてはいます。
そして、次回作、仮称「続々・和文フリーフォント集」には生徒さん作のフォントが収録できたら面白いかなと思っています。
興味のあるクリエーターの皆さん、フォントを作ってみたい、次回作に載りたいと思っている方、ぜひメールにて連絡ください。お待ちしています!

続・和文フリーフォント集
https://fontgraphic.jp/bookfontgraphic/

続・和文フリーフォント集

効果抜群! 個性派フォント80種収録! さまざまなデザインに効果抜群の、日本語フリーフォントを 80種、厳選収録しました。

初稿:2015.11.12